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しらない場所へ、あなたと

ミンサガ グレクロ
「古文書」イベント途中で帝国図書館に寄るグレクロの話

まあただの創作なんだから深く考える必要もないんですけど、やっぱり古文書はキャプテンから追いはぎしたのかなあ。
二人旅ってことは、つまり、そういうことなんだろうなあ。




「それ」を開けば私の心は迷いの森を出て、外の世界へ、神話の世界へ、どこへでも行くことができた。
森の魔女オウルや動物達と過ごす森での暮らしを、窮屈に思っていたわけではない。けれど「それ」が見せてくれる外の景色は、とてもきらきら輝いて見えた。
私は「それ」で文字の読み書きを覚えた。いつかこの森を出て、オウル以外の人間と関わりを持つ日のために。
不思議なことに「それ」を読み直そうとすると、オウルの庵から消えたり、また別のものが現れたり。何も知らなかった私は「それ」はオウルの魔法で出したり消したり出来るものなのかしら、なんて思っていた。

そして「それ」の裏表紙を開くと、そこにはいつも同じ…


森の中にいながら読み書きを学ばせてくれた魔女オウルには、本当に感謝している。そうでなければ、私の旅はここで大きく躓いていただろう。
私は今長らく暮らしていた迷いの森を離れて、ガイド役の冒険者グレイと共に旅をしている。彼に案内されるがままに旅を続けるうちに、私たちは財宝が隠されているという古文書を手に入れた。これまで富だとか貴重な骨董品だとかを、欲しいと思ったことはなかった。けれどその財宝の話を聞いたとき、どうしても手に入れたい、と心を揺さぶられた。ただのおとぎ話だろうとも思うし、仮に実在したとしても、古文書の指す場所はもうもぬけの殻になっているかもしれない。それでも、探してみたいと思った。そうして古文書を解読するために、私達はメルビルの図書館で古代文字の辞典を探していた。
図書館の入り口に立っていたおじいさんの言う通り、帝国図書館は本当に立派なものだった。壁を一面覆い隠してしまうほどに本棚が並んでいて、その中には古いものから新しいものまで、様々な本がぎっしりと詰まっている。閲覧者が長居するための机や椅子は用意されていない。ただ本たちを保管するためだけにある場所が、あくまで好意で住民に開放されているようだと思った。深く息を吸うと、紙のにおいで胸が満たされる。色々と開いて読んでみたい気持ちを抑えて、私は奥へと足を向ける。
「古代文字辞典コーナー、こっちじゃないかしら。」
そう呼びかけると、グレイは小さくうなずいてこちらへ歩み寄った。
彼は何を考えているのかわからない時があるほどに、とても無口な男性だった。だけど、彼のそうしたところを嫌だと思ってはいない。ずっと静かで穏やかな森で、オウル以外の人と言葉を交わさずに暮らしてきた私にとって、森の外はうるさすぎた。歩いているだけで声をかけてくる商店の売り子、通りに響き渡るほど大声で立ち話をするご老人。そんな街の喧騒に疲れてしまうことも多かった私は、彼との静かな時間を居心地よく感じ始めてもいた。
つまさき立ちをして、少し高い棚にある辞書に手を伸ばそうとする。その手をやんわりさえぎるように、背後からグレイの腕が伸びた。彼とは会ってまだ日は浅いけれど、いつも私が無理をしないように見てくれているように思う。あまりにもさりげなさ過ぎて、気遣ってくれているというのはもしかしたら私の勘違いかもしれない。そう考え尻込みしてしまって、いつもお礼を言いそびれてしまうのが気がかりだけど、嬉しかった。
預かっていた古文書を道具鞄から取り出し、単語のスペルをひとつずつ読み上げた。それをグレイが順番に辞書でひいていく。しばらく地道な作業が続いた。
「…なるほどな。財宝のありかは『ふたつの月の神殿』で、入るためには『アムトのシンボル』と『エリスのシンボル』が必要だと。」
「アムトとエリス、それぞれ月の神の名前ね。神殿へ行けば、何かわかるかしら。」
「かも知れん。アムトは北エスタミルに神殿があるが、エリスの方は聞いたことがないな。そこで話を聞いてみるか。」
グレイは本当に地理に詳しい。知識として知っているだけでなく、実際に行ったことがあるから、すらすらと出てくるのだろう。そう感心しきって頷き、返事をしようとした。しかしグレイが閉じようとした辞書の、最後のページに目が釘付けになってしまった。

オウルが見せてくれた本。その裏表紙をひらくと、そこにはいつも同じ変なはんこが押してあった。

「変なはんこ!」
思わず口に出してしまい、はっと息を呑む。グレイが今まで見たことのない、ひどく驚いたような表情をしている。普段モンスターに襲われようが涼しい顔をしているのに、私が突然大きな声を出したことがそんなに意外だったのだろうか。
「蔵書印が、どうかしたのか。」
「ご、ごめんなさい。」
頬が熱くて、まともにグレイの顔を見られない。だけどこのままうつむき黙っているわけにもいかず、消え入りそうな声で答えた。
「子供の頃にオウルが見せてくれた本に、同じ印が押してあったの。それで…」
グレイが辞書の裏表紙をもう一度開いて、蔵書印と呼ぶらしい印を見せてくれた。やはり間違いなく、オウルの庵に置いてあった本と同じ文様だった。
「魔女オウルが帝国図書館の本を?」
「時々、森では調達できない薬や食料品を買いに町へ出ていたから…その時に借りてきていたのね。」
オウルの庵に本が現れたり消えたりしていたのは魔法ではなく、私に色々な本を読ませようとここから借りたり返却したりを繰り返していたのだ。ここに、子供の頃オウルが見せてくれた本がある。オウルとの思い出の本がある。そう思うと、鼓動が少し早くなった。
「北エスタミルへは明朝に発とう。」
彼らしいそっけない言い方だった。だけどそれはつまり、今晩はこのメルビルに宿を取ろう、それまではここで過ごそうという意味だった。
オウルを亡くしたばかりの私を気遣って、せめて思い出の本でも見ていこうというのだろう。
「どんな本を読んでいたんだ?」
言いながら、彼は辞書を元の棚に戻す。やっぱり、グレイは優しい人だ。
「…ありがとう。」
氷のようにつめたい色をした瞳が、ほんの少しだけ笑うように細められた。私も彼に微笑み返すと、改めて図書館内を見回した。確か、見せてもらっていたのは簡単な言葉で書かれた児童書だった。子供の本のコーナーの棚に目をやる。すると、見覚えのあるタイトルがいくつも目に飛び込んできた。どれから読もう、背表紙を選ぶ指が迷ってしまう。

まず、何度も読み返した『かみがみのたたかい』に指をかけた。神々の争いと、神々の父エロールより聖なる石を賜った銀の戦士ミルザの物語だ。この本は本当に幼い子供向けなので、物語の有名な部分だけを簡素な言葉でまとめている。だけど私の読み書きが少し上達した頃、物語をもっと詳しく描いた別の本が、オウルの庵に置かれるようになった。オウルが私の成長を認めてくれたみたいで、とても誇らしかった。
横から覗き込んでいたグレイに本を手渡すと、彼はぱらぱらと足早にページをめくって読み始めた。その横顔をぼんやり眺めながら、オウルが亡くなった日のことを思い出していた。



「しゃべりすぎたわ…。」
そんな疲れきったような言葉が、最後に聞いたオウルの声だった。砂細工が崩れるように体が薄れて、いつも身に着けていた笠と杖だけがはたり、と落ちた。あまりにもあっけなく、一瞬の出来事。
「オウル…。」
ここまで育ててくれたオウルが、これからはもういない。その事実をまだ受け入れられず、死の直前に明かしてくれた私の出生の話もとても信じられる内容ではなく、悲しみよりもまず混乱があった。
「クローディア。」
立ち尽くしたままの私の背後から、グレイの声が聞こえる。普段は何があってもあまり変わらない声色が、その日は少し苦しそうに聞こえた。そんなに心配をかけてしまう程、ひどく憔悴しきって見えたのだろう。
「私なら大丈夫よ。」
それしか言えなかった。そう言わなければ、本当に大丈夫ではなくなってしまう気がした。できるだけ普段どおりの仕草でしゃがみ、オウルの遺品をそっと手に取る。そして何もなかったように立ち上がり、庵から出ようとした。だけど、心がついていかない。泣こうなんて思っていなかったのに、抑えがきかない。
グレイが何も言わず、私の腕を取った。今誰かに優しくされたら、今度こそだめになってしまう。振りほどこうとしたけど、彼はその手を離そうとしなかった。その手の力強さの分だけ、彼の思いが伝わったような気がする。
「…っう…。」
そのうち声も抑えられなくなった。グレイは私を無理に振り向かせようとせず、そのまま、ただ腕を掴んでいてくれた。その手がゆっくりと下がり、私の手を握る。薄手の皮の手袋越しに、彼のかすかなぬくもりを感じた。それがどうしようもなく暖かくて、私はその手を強く握り返した。

あんなにつらくてもう立ち直れないと思っていたのに、今はただオウルとの思い出を愛しく思える。
そして今穏やかな気持ちでいられるのは、きっとあの日素直に泣くことができたから。

本当は、無意識のうちに恐れていたのかもしれない。
これまでオウルや森の動物たちと静かに暮らしていた自分が、誰か他の人と関わるようになったら。
ひとりで過ごすことに慣れていたはずなのに、誰かと過ごす安らぎや、誰かを思い誰かから思われることが当たり前になったら。
私はもう、これまでの私ではいられなくなってしまう気がしていた。
これまで何事にも心を乱されることなく生きてきたのは、私の心が強いからじゃない。心を乱されるようなことを避けて生きてきただけ。
そんな自分が、他の人の優しさに慣れてしまったら。そしていつか、その暖かさを失うことになったら。
その時私は、もうひとりでは生きていけなくなってしまう。

いつかこの手のぬくもりを失うことになったら、私はひとりで歩いていけるのだろうか?
その日のことは、まだ考えたくはない。考えられるほど、まだ強くはなれていない。
今はただ人と過ごす毎日を、優しいガイドさんと過ごす毎日を楽しみたい。
そのことだけを、強く願っていた。


ひととおり読み終わったらしく、グレイが本をぱたんと閉じる音で我に返った。
「PUBで吟遊詩人がよく弾き語りをしている伝承だな。」
「そうね。そっちでもあまり語られていないけれど、ミルザの仲間達がみんな個性的で良いのよね。」
グレイが棚に『かみがみのたたかい』を戻すと、入れ替わりに私は『かみをたおしたおの』を手に取った。これは伝説の武器が神をばらばらしてに倒した、というだけの本当に簡潔な内容だった。そのため、一番最初に読み書きの練習の題材として使ったものだ。その内容について、読み書きの勉強を始めたばかりの頃はなんとも思っていなかった。けれど読み書きに慣れてよくよく読み返してみるとその話の短さ、展開の速さに困惑したものだった。物語というよりは、伝承のほんの一部だけが残っているような本だった。
「これも懐かしいわ。」
「そうか。」
さっきミルザの伝説を読んだときよりも、グレイの反応が薄い気がした。気になって彼の目を見ると、ふいと視線をそらされた。
「…子供の本は読んだことがないんだ。」
まさか、あんなに博識に見えていたグレイが子供向けのおとぎ話を知らないとは。今度は私が驚いて目を見開く番だった。
彼は子供の頃、本を与えられずどう過ごしていたのだろう。どうやって今まで生きてきたのだろう。少し気になったが、あまり詮索していい話ではないと思った。
「…他に、読んでいたものはあるか。」
詮索なんかしなくてもいい。グレイが外の世界を教えてくれるかわりに、少しずつ物語の世界を教えてあげられたらいい。
「あとは…」
『かみをたおしたおの』を戻すと、その隣に並んでいた『命をくらう斧』を取る。こちらも伝説の斧について簡素に記されたものだった。
「そんなに強い武器があるのなら、お目にかかりたいものだな。」
心なしか、グレイの声色が普段よりもほんの少しだけ弾んだように聞こえる。武具の伝承に興味を示すなんてやはり冒険家気質というか、意外とロマンチストなのかもしれない。
「まさか、これはただの伝説でしょう。」
「こんな話が残っているからには、あながちただの作り話ではないかも知れん。現にムーンストーンも、いかにもな伝承が残されている。」

そう、今回解読している古文書が示しているのは伝説の宝珠デスティニィストーンのひとつ、気のムーンストーンのありかだった。あの『かみがみのたたかい』にも描かれた、かつて英雄ミルザが携えたという邪の力を打ち破る腕輪。今でも半信半疑だけれど、あの本に記されていた通りの宝珠が存在するならば、この目で見てみたい。あの物語の続きを、見てみたい。

そしてもしもムーンストーンが実在するのならば、あの人を、バファル帝国皇帝を救えるかもしれない。
まだオウルが聞かせてくれた私の出生のことを、完全に信じて受け入れることが出来たわけではない。私がバファル帝国の皇帝の娘で、政権争いに巻き込まないように森の魔女オウルに預けられていたなんて。決してオウルが嘘をついていると思っているわけではなく、バファル帝国の皇位継承者という立場が重過ぎて受け止めきれないでいたのだ。そうした気持ちにまだ整理はついていないし、まだ実の父である皇帝に対して自分がどんな感情を持っているのかすらわからない。
だけど皇帝が突然原因不明の病に襲われ臥せっていると聞かされたとき、私の手で何とかしたい思ったのは事実だった。私の手で救うことが出来るのなら、気のムーンストーンの力で癒してあげられるのなら、そうしたい。

「見つかるさ。」
グレイは本を戻しながら、こちらを見ずにそう言った。内心ムーンストーンのことで頭がいっぱいになっていたのを感づかれていたらしい。彼が私のことによく気づいてくれるというよりは、私は彼から見たら考えていることがわかりやすいのだろうか。人からみた自分のことなんて、これまで意識をしたことがなかったのでよくわからない。そう思うと少し恥ずかしいけれど、自然と嫌な気持ちにはならなかった。
「そうね。」
それにしても、ずいぶん長い時間つき合わせてしまったように思う。本の劣化を避けるために外の光が差し込むような窓がないので、外の様子は見えないけれど、もう日が没した頃だろうか。明日は朝から港町ブルエーレへ出立し、そこから北エスタミルへ船旅だ。そろそろ宿で休まなければ、明日に響いてしまう。
「船旅の間退屈だろう、何か借りていくか?」
「いいえ、船から外を見ているのも楽しいから、大丈夫。」
そのかわりと言ったら変だけど、と私は言葉を続けた。
「まだ紹介したい本がたくさんあるの。二つの月の神殿から帰ってこられたら、また一緒に来てくれる?」
聞かなくたって答えはわかっているはずなのに、私は彼に対してまだ臆病だ。だから小さくうなずいてくれる彼の優しさに、もう少しだけ甘えていたい、なんて思ってしまう。


そうして私は彼に連れられて、私も彼を導いて。
明日もきっとまた、しらない場所へ、あなたと。
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寺島ロシカ

Author:寺島ロシカ
テイルズオブデスティニー2(ジュハロ)、ロマンシングサガ・ミンストレルソング(グレクロ)、ドラッグオンドラグーン2(ノウェエリ)、ブレスオブファイア5(リュウリン)とかそんな話ばっかり。
鳥海浩輔さん、千葉一伸さん、皆口裕子さんの三柱神を崇め奉る。

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