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ある孤児の旅の終わり

ミンサガグレクロ 皇女クローディアの話番外編

改めて読み返してみても俺内設定っぷりがひどすぎる。こういうものばかり書いていきたい。





「これで、今日の分は終わりにしよう。これ以上は無駄な殺生だ。」
「それにしてもーーーはすごいな、鹿でも猪でも百発百中だ。」
「ああ、ーーーはこの村で一番の弓の名手だ。まだまだ子供なのに、偉いものだよ。」
「さぁ、そろそろ帰ろう。みんなが待ってるよ。」

木漏れ日の射す深い森の奥。
まるで何かから身を隠すような、慎ましやかな集落があった。
外界との交流は一切持たず、食料や雑貨はすべて森で採れるものから賄っている。
その際、本当に必要な分だけ動植物を狩ることを厳しく徹底していた。
そして手に入れたものは、村人全員に平等に分け与えられるのだ。
争いを好まない、というよりは争いを忌み嫌うような性質の村人たち。
狩りに用いる武器も、剣や槍といった直接手を下すようなものではなく、血を浴びることのない弓矢のみ用いていた。
平和で、穏やかで、時が止まったかのような、どこか狂った集落。

違う。
こんなところ、知らない。


強く目をつぶる。まぶたを開く。
ここ最近、森の中を歩くといつも同じ幻覚に苛まれる。過去の記憶が想起され、目の前の風景に重なるようにちらついてしまう。
見慣れた仲間達の背中が離れて見えた。遅れていることに感づかれないように、少し歩を早める。
グレイは自分の過去を知らないまま、これまで生きてきた。今更知りたいとも思っていなかった、思い出せないままでいいと思っていた。
それなのに、どうして今更こんなことになったのか。
腰から下げた刀が、歩くたびにかすかな音を立てる。ものを言わなくなった今でもなお、自分の存在を主張するように。


「こんなボロっちい刀まで拾ってくの?売れるかなあ。」
「さあな。」
冒険家グレイは、同行している仲間に振り返りもせず、ぶっきらぼうにそう言った。

彼はこの広いマルディアス中を旅して、手に入れた財宝を売り生計を立てていた。旅を続けるために金を求めているのか、金のために旅を続けているのか、時々見失ってしまうような感覚に陥ることもある。それでもひとところに暮らそうという気になれず、宛もない旅が延々と続いていた。帰る場所も、留まるべき場所もないと感じていたのだろう。彼はどこでも生きていけて、どこにも居場所がなかった。
特別決まった仲間とつるむことはせず、その時は術士ミリアムと聖戦士ガラハドという二人の行きずりの仲間と共に、東の島リガウに降り立っていた。

「相当な年代ものに見えるが、刀のことはさっぱりだ。」
「あたいもー。」
洞窟の奥深く、まるで誰かの手に渡る日を待っていたかのように、その刀は地面に突き刺さっていた。
刀を見つけた時から、グレイの旅は終わりに向けて動き出していたのかもしれない。
それを抜いた瞬間、声が響いた。
「…偉大なるリガウの戦士の血を継ぐ者よ…」
最初は、洞窟内にモンスターの声でも反響し聞き違えたのかと思った。しかし背後に控えている仲間たちには、声が聞こえているような素振りは見えない。刀は、確実にグレイにのみ語りかけている。
なにか心に引っかかるものを感じ、グレイはその刀を手元に残しておくことにした。

刀の声の主は古代リガウ王朝のこと、王家を守る刀を鍛え上げるために費やした様々なもの、様々な犠牲についてグレイに語りかけた。
声の主の記憶をなぞるように、リガウ王朝の悲劇をなぞるように刀を鍛えるうちに、グレイはあることに気がついた。
グレイは古刀の昔語りを知っていた。正確には、その昔語りの結末を知っていることを、思い出した。
最初のうちは、自分の記憶が信じられなかった。刀の語る物語と、どこか旅の途中で聞いた話が合わさった妄想だと思った。刀に取り付いた男の妄執に中てられ、気でも狂い始めただけだろうと。しかし昔語りが進むにつれて、失われていた記憶が嫌が応にも鮮明になっていく。
刀を鍛えることに取り付かれた男は、過去の体制に囚われ変革を恐れた王族関係者を粛清し、国を売り、挙げ句守るべき王にまで手をかけた。そうしてリガウ王朝は外敵と戦わずして、内部から崩壊し衰退した。生き残ったリガウの民の一部は島から逃れ、バファル大陸まで渡り森の奥深くへと身を隠したのだ。

刀に触れてはなりません。
刀はリガウの血を狂わせ、人殺しに駆り立てるから。

幼い自分にそう語りかけたのは、顔もあやふやだが母親だったのだろうか。今思えば洗脳に他ならない教えだった。しかしはるか昔リガウの民が共同体を成してからずっと、そこで生まれた子供はみな同じような教育を受け、それが真理だと信じ育ってきたようだ。
そうして極端に争いを嫌い、刃物を持つことを知らない人間たちは、ひっそりと歴史の影で生きてきた。彼はその事に何の疑問も抱かず「村一番の弓の名手」として生きていた。

集落が野盗に襲われ、焼き払われるあの夜まで。

弓しか持たず対人の戦法も知らない村人たちは、抵抗する暇もなく殺された。わずかな食料や調度品は根こそぎ奪われ、何の価値もなくなった集落は火をつけられた。長の家も、皆で暮らしていた長屋も、集落の目印となっていた大木も。
死にたくない。逃げなきゃ。
はぜる熱風に身をちりつかせながら、地獄のような光景となった森を半狂乱で走り出した。「村一番の弓の名手」は親も友人も助けられず、野盗たちから逃れた。

どうして言いつけ通りに暮らしてきたのに、争いが起きるんだ。
村の教えはみんなを守ってくれなかった。
村の教えが、みんなを、殺した?

その凄惨な体験は、若い彼の心を壊すのに十分だった。
騒ぎを聞き付け派遣されたバファル帝国軍に保護された時には、彼は全ての記憶を失っていた。自分の名前すらわからず、茫然自失とした状態だったという。
帝国軍駐屯地には、同じように野盗に襲われ逃げ出してきた人々が集められていた。
「村が焼けた、みんな死んだ……みんな……」
ジャンもその一人だった。彼と対照的に、ジャンは事件を鮮明に覚えていたらしい。時折事件の記憶が蘇るのか、頭を抱えて何か呻いている。
かける言葉も見つからず、そもそも言葉を発するだけの気力もなく、彼はただジャンの隣で焚き火を見ていた。その時のことだけは、忘れていなかった。力もなく、強いたげられる運命に置かれた自分を、ただただ悔しく思った。

そんな彼らに、願ってもない提案がなされた。
バファル帝国軍に従事せよ、さすれば衣食住を保証しよう、経歴や年齢は問わない。そうバファル帝国皇帝から勅令があったのだ。
帝国軍に入れば当面食べていける。そして何より、戦う術を身に付けることができる。彼もジャンも、二つ返事で申し出をのんだ。
周りの難民はほとんど大人ばかりで、十代後半の子供は彼とジャンのみだった。その事を心細く思わないことはなかったが、他に生き延びていく手段がなかったのだ。

「グレイ」という名前は、帝国軍への登録の際につけられたものだった。
「名前がわからねぇ?!寝ぼけたこと言いやがって!」
彼は帝国軍小隊長の大男に叱責されてもなお、彼は感情を失ったような虚ろな目のままだったという。
「じゃあ俺がつけてやる!文句言うなよ!」
彼は粗暴に良い放ちながらも、腰に両手を当て天を仰いだ。どうやら真面目に考えているらしい。言動は荒いが、彼はまだ若くして軍に入ろうとする二人を案じており、後にも色々と気に掛けてくれることとなる。
「お前はグレイだ!髪が灰色だからな!喜べかっこいいだろ!」
小隊長の男は、彼の返事を待たずに書類を書き上げた。
「おう下がって良いぞ、次の者とっとと来い!」

そうして彼は森の集落で過ごした過去を捨て、グレイという軍人として生きていくこととなった。

「グレイ!おい待ってくれよ!グレイ!」
ああ、出会った頃の辛気くさい彼のままでいてくれたのなら、どれだけ過ごしやすかったことか。帝国軍に従事して二年ほど、ジャンは当時の面影もなくよくしゃべる少年に成長していた。それが元々の性格だったのか、それとも彼も過去を捨て違う自分になろうとしているのかはわからない。ただグレイは単純に、耳障りだと思っていた。
しかし今思えば、そのやかましさも役に立つものだった。どうしても軍隊に不相応な少年二人というのは悪目立ちしてしまい、周囲の大人たちから陰口を叩かれることが多い。しかしそうした雑音も、ジャンの話し声ですべてかき消されてしまうのだ。
一方グレイは全く騒がず笑わない、無感動な子供になった。もしかしたらジャンは、あの戦災で感情をなくしたーように見えたー自分を元気付けようと明るく振る舞っていたのだろうか?だとしたら余計なお世話だった。
楽しいことがないから笑わない、心を揺さぶられもしていないのに感情は出せない。それはある意味とても自然な状態だった。

集落で暮らしていた頃は、とにかく村人同士の和を強要されていた。狩りは必ず仲間と群れて行う。朗らかに集落のために働く。村の年長者の話に、大して興味もないのに恭しく耳を傾けた。
決して闘争心や野心をむき出しにせず、穏やかな人格者でいることを強要するような、相互監視をするような共同体だった。
記憶を失ったことで、そうした仮面が剥がれ却って素の自分を取り戻したのだろう。
全てを思い出した今、そう考えていた。

「今日で主武器決めるんだろう、何にするんだ?」
バファル帝国軍に入隊した者は皆訓練兵として体術や弓術、魔術や剣術など一通りの基礎を学んだ後、本格的に修練を積む専門職を選択することになっている。二人も規定の教育課程を経て、ジャンの方はすんなり細剣に決まった。しかし一方グレイは長剣と弓の二つには絞ったものの、どちらにするか決めあぐねてしまっていたのだ。
しっくり手に馴染み、上達が早かったのは弓だった。しかし弓を手に取る度に、不思議な感覚に襲われた。これを用いて戦うことは罪である、そう誰かに耳元で囁かれているような不快感があった。理由を思い出した今となってはどうということはない感覚だったが、当時は何故そのように感じるのかわからずただ漠然と恐怖していた。一方長剣は平均的な伸びだったが、弓を持った時のような迷いがない分、ただ無心で振るうことが出来た。
「お前は長剣だよ。」
ふと、背後の上の方から聞き馴染んだ大声が聞こえた。振り返ると、グレイの名付け親となった小隊長の大男が二人を見下ろしていた。彼は直接二人の指導をすることはなかったが、時折教練を覗きに来ていたのだった。それもまだ幼さの残るグレイとジャンを心配してのことだったのだが、修練に全く関係のない雑談で邪魔をされては担当の教官に叱られたり、迷惑な思いもしていた。
それゆえ、珍しく真剣な眼差しで助言する彼が、当時のグレイに深く印象付けられていた。
「お前の弓はただのお稽古程度までしか成長しない。鹿でも狩るならまだしも、実戦では使い物にならねえ。だがお前の剣技はまだ伸びしろがある。だから長剣で剣術の基本を学んで、それから刀とか他の武器に応用した方がいい。」
共に話を聞いていたジャンが首をかしげる。
「ええー、また適当なこと言ってるんじゃないんですか。」
小ばかにしたようなジャンの物言いに、小隊長の大男はいつものふざけた調子に戻った。
「本気だよ!お前ら俺のことナメてるだろ!」
「…俺はまだ何も言ってません。」
「嘘つけ!目が死んでたぞ!」

今にして思えば、皮肉にも良い理解者に会えたものだと思う。あの男の助言があったからこそ、グレイはリガウの民としての、刀剣使いとしての性質を取り戻した。結果として必要となれば人を殺すことも厭わないような、あの集落の住民たちが最も忌み嫌い、そうならないよう自戒し続けた人間に成り下がってしまったのだが。

あの男は今どうしているのだろうか。どこか知らない場所で戦死していたとして、軍隊に身を置いている者の定めだろう。悲しむほどのことではないとは思うが、考えずにはいられなかった。

「…グレイ?起きていたの?」
宿屋のラウンジに出て暖炉の炎を眺めながらそんなことを思い出していると、背後からクローディアに声をかけられた。部屋の扉を閉めた音を聴きつけたのだろうか。
「起こしてしまったか。」
「いいえ、私も眠れなくて。」
そう言いながら、隣に腰掛けた彼女の視線はどことなく気遣わしげだった。昼間、森の中で様子がおかしかったことに感づかれていたのだ。
「何か、あったの?」
「何もない。」
「…そう。」
クローディアの声色が少し暗くなるのを感じ取っていた。それでも彼女には古刀の声が聞こえることも、それによって過去を思い出していたことも言わなかった。余計な心配をかける必要はないと思っての行動だったが、結果として彼女を遠ざけてしまう形になっていた。
クローディアはそれ以上何も言わず、ただ黙って隣にいた。自分にはそれしかできないのだ、と思わせてしまったのだろう。


あの時彼女に話すことが出来ていたら、何か変わっていたのだろうか。
しかし、もうそんなことを考える必要もない。邪神サルーインを倒し、ひとまず世界は危機から免れた。そんな話をする時間なら、これからいくらでも作れるのだから。
眩しい木漏れ日が辺りをまばらに照らす。動物達の鳴き声や、身じろぎする音が時折聞こえるだけで、本当に静かな森。グレイはメルビルより南に下った森林地帯に足を踏み入れていた。もう過去を思い出し始めた頃のように、当時の記憶が幻覚として見えることはなくなった。
どうして今更、自分の生まれ育った集落の跡地など見に行こうと思ったのだろうか。邪神サルーインを倒し、バファル帝国皇女であり大切な仲間であるクローディアを守るという望みは果たした。そして当面の目的がなくなった今、頭をよぎったのは故郷のことだった。
当時メルビルまで出ることはおろか、この森林地帯を離れたことはなかった。同い年くらいの子供たちと、この場所から自分たち以外の人間が住むあの大都市を眺めたことがあるだけだった。ちょうどメルビルの方角に背を向け、正面に見えるひときわ大きな木々を抜け、そのまま進んだ先に集落がある。もう、そこまで鮮明に思い出せていた。
ふと小さな黄色い小鳥が、躍り出るようにグレイの眼前に飛んできた。野生の動物の割にずいぶん人に対して警戒心がないものだ。そう考えているうちに、小鳥は明らかにこちらを見て何かを訴えていることに気づいた。恐らくクローディアに使わされ、彼の様子を見に来たのだろう。
「俺の言葉が通じるかな。」
自嘲気味に言うと、彼は左腕を差し出す。そしてそこへ降り立ち羽を休める小鳥に語りかけた。
「時間までには戻ると伝えろ。」
どうやらいい知らせであることは理解したらしい。返事をするように大きな声でさえずると、黄色の小鳥はぱたぱたとメルビルの方角へ飛んでいった。
その様子を見届けてから、グレイは再び集落への獣道を歩き出した。この一帯はあの時すっかり焼けてしまったのだが、そんな惨劇などなかったかのように再び草木が生い茂っている。しばらく人間の姿を見ていなかったのであろう、子ウサギが驚いたように飛び退り、草むらへ消えていった。

結末はわかっていたはずなのに、ようやくあきらめることが出来た。
集落は跡形もなくなり、ただの広けた場所になっていた。風化しわずかに残された瓦礫すら、苔や蔦が張り巡らされている。まるで凄惨な傷をふさぎ癒すように。
ふいに強い風が吹いて、辺りを木々を揺さぶる。はるか彼方の空で、千切れた雲が流れていく。
もうこの場所を思い出さなくてもいい、もうあのような過去などなかったかのように生きていい。だから、早く帰るべき場所へ行きなさい。誰かにそう言われているような気がした。

もうメルビルへ戻ろう。自然と、そう思えた。


宮殿の一室へ足を向ける。扉の前では、見張り役を買って出たのであろうジャンが壁にもたれかかり、立ったまま眠っていた。
「ング、フガ!」
まがりなりにもバファル帝国皇女の護衛であるのに、相変わらず気の抜けた男だ。グレイは彼には構わず、扉を軽くノックした。
「入ってちょうだい。」
中から、聞きなれた優しい声が聞こえる。グレイは促されるまま扉を開いた。
「…お前たち、まだ終わっていなかったのか。」
中では、ひときわ美麗な深緑のドレスを身にまとったクローディアと、
「あ!グレイだ!」
赤みの強いオレンジ色をしたミニドレスを着たアイシャがいた。アイシャのそばには、似たようなドレスが何着も脱ぎ散らかされている。
今日は午後から、再びアルベルトらローザリア王国側との会談が控えていた。今度は遊牧民族たちを代表して、タラール族の長の孫であり、共にサルーインを倒した仲間であるアイシャも同席することになっている。
以前クローディアはアイシャと「エリザベス宮殿に用意されていた子供用のドレスを貸し与える」という約束をしており、前日夜からあれでもないこれでもないと二人で吟味していた。しかし、今朝になってもまだどれを着ていくか決まっていないらしい。
「そろそろ出る時間だろう、さっさとしろ。」
グレイがうんざりしたようにそう言うと、アイシャは腕を振り回して怒った。どんなに華美な衣装を身にまとっても、アイシャの無邪気さは相変わらずだった。
「だってー!これは肩がぽわんぽわんでかわいいしー!こっちは裾がふりふりでかわいいのー!」
「どれも同じにしか見えんな。」
「違うもんー!」
年齢の離れた兄と妹のような二人のやりとりに、クローディアは優しく微笑む。彼女の眼差しも、アイシャの本当の姉のように優しいものだった。
「どちらも似合うから迷うわね。こっちの方をもう一回着てみてもらえるかしら。」
「うん!」
アイシャは元気にうなずくと、裾がふりふりの方のドレスをひっつかみ奥の小部屋へスキップするように歩き出した。しかし、思い出したようにグレイに振り返ると、きっと目をつりあげた。
「グレイが覗かないように、ちゃんと見張っててね!」
「誰がお前みたいなお子様を見たがるものか。」
さも興味なさそうに、グレイは散らかったドレスを雑に退けてソファーに深く腰をかけた。アイシャは舌を出すと、ばたんと大きな音を立てて小部屋のドアを閉じてしまう。クローディアもドレスの裾を持ち上げると、グレイのそばに歩み寄り隣に座った。
「…私だったら、覗いてくれたの?」
彼女にしては珍しい、からかうような言葉だった。面食らったグレイは顔を背けると、
「そういう意味じゃない。」
とだけ返した。くすくすと小さな笑い声が聞こえるのが少し癪だが、何故だか悪い気はしない。声がやんだのを聞き取り、グレイは改めてクローディアのほうに向き直った。皇女という立場になっても、一見儚げだが意志の強い表情に変わりはない。何か言うでもなく、彼はしばらくクローディアを見ていた。
「どうかしたの?…なんだか、すっきりしたみたいな顔してる。」
「そう見えるか。」
クローディアのつややかな栗色の髪を、まるで壊れ物を扱うように優しくなでる。
「いつか話す。」
「そう。」
彼女の返事は短いものだったが、語尾が少し跳ねている。クローディアもグレイの瞳をじっと見つめ返した。
「じゃーん!どうかなぁ?」
ふいに奥の小部屋のドアが開き、着替えが終わったアイシャがくるくると回りながら出てきた。グレイは眉間にしわを寄せ、わざとらしく首をかしげると
「違いがわからん、本当に着替えたのか?」
とアイシャを怒らせるように言った。アイシャはいよいよ顔を真っ赤にすると、裾がめくれるのも気にせずグレイに詰め寄る。
「もー!ちゃんと見てよー!」
騒いでいる声を聞きつけてか、慌てた様子でジャンが部屋に駆け込んできた。
「て、敵襲か!寝てませんよ全然!…ってグレイ!いつの間に帰ってきてたんだ!声くらいかけろよ!」
「どうせ居眠りしてたんでしょ!そんなことより聞いてよグレイがー!」
辺りが一気に騒がしくなり、グレイはいよいよ眉間に皺が寄るのを隠そうとしない。クローディアがさも楽しそうに微笑んでいるのが傍目に見える。うんざりしながらも、グレイは胸のうちがほどけていくのを感じた。

帰るべき場所も見つけられず、明確な旅の目的すらなくなってしまう。いつかそんな日が訪れたとしても、これまで通り足の向くままどこへともなく旅出つのだろう。ずっとそう思っていた。どこかを終の住処とし、ただの人として暮らしていくには、あまりにも手を汚し過ぎてしまったから。

そんな自分でも、こうして誰かのそばで生きていくことは出来るのだろうか。
彼自身は不機嫌な顔をしているつもりだったが、その表情はどこか穏やかだった。

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プロフィール

寺島ロシカ

Author:寺島ロシカ
テイルズオブデスティニー2(ジュハロ)、ロマンシングサガ・ミンストレルソング(グレクロ)、ドラッグオンドラグーン2(ノウェエリ)、ブレスオブファイア5(リュウリン)とかそんな話ばっかり。
鳥海浩輔さん、千葉一伸さん、皆口裕子さんの三柱神を崇め奉る。

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